記憶と。
 僕のクラスには、1人だけ飛びぬけて身長の高い女の子がいた。
その女の子が転校をするかもしれないという噂がちらほら出始めていた。
その女の子は中学1年ですでに170cm後半ほどあった。
バレーボールの選手だった。
 小学校の時、僕もバレーボールをしていた。
生まれて初めて、自分より大きい同級生をみた。
僕も昔から身長は高く、6年生で168cm程あった。おそらく彼女は、すでに170cm以上あったのだと思う。
試合の前、先攻後攻ジャンケンをして握手をするとき、生まれて初めて自分より手の位置が上だった。
そして初めて自分のスパイクをブロックされた。自分のブロックの上からスパイクを打たれた。
身長にかなりの自信があった僕はそれなりにへこんでいたと思う。
自分とはまったくレベルが違う、という事も一瞬で認めてしまっていた。
そしてそのありえない状況にチームメイトはやる気を失い、僕一人がコートを走り回っていた。
その姿を、違う小学校でバレーをしていた綾子は同じ会場で見ていたのだといった。
僕はその情けないとも見える姿を見られていたことに恥ずかしくなった。
綾子は、よくがんばったね。とやさしく頭を撫でてくれた。
僕は、バレーの事で家族以外に認められた記憶が無かった。
それはバレーというチームプレイのスポーツで、自分がやらなくてはという間違った自信によるワンマンプレーで、
チームメイトからというよりも、その親達の反感を少なからず買っていた。
それは直接言われることでなく、僕に対する冷たい視線で解っていた。
それでも、僕は試合に勝つために、それを続けた。
だれに認めてもらいたいとか、そういうのではなく、自分の信じる信念を貫いていた。
でも、それを認めてくれる人がいたという事は、本当にうれしかった。
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