たった一人の甘々王子さま
浩司も慌てて振り向いた。
優樹が抱きついたままなのに構わず。
優樹はすぐに浩司の首元に顔を埋めた。
優樹が少し震えた感じがして浩司も安心させるように背中を撫でた。
優樹は、ショウの射るような視線が恐かったのだ。
あのときのパーティーで間合いを詰められたことを思い出す。
浩司の眉間に皺が入った。
そんな姿を見た優樹の父は二人の変化を気に止めることなく
「ほう、二人はそんなにも仲良くなったのかね?1年ちょっとでかなり婚約者らしくなったもんだな。」
冗談混じりで語り、二人の座るソファーの向かいに腰かけた。その後ろには川村さんが立つ。
そして、
「二人ももう顔合わせはしているかな?
ショウくん、此方へ。」
優樹の父・良樹に促され、ショウは隣の席に来る。
「はい。失礼します。」
ソファーに腰を下ろすと、浩司と優樹が座る席とは向かい合う形になる。
ショウは、浩司と視線がぶつかると『ニヤリ』と、不適な笑みを。だが、優樹を見つめる目はどこか優しい。
そのショウの視線が浩司には優樹という獲物を見つけた獣に見えて胸騒ぎがする。
隙あらば、とって食われそうな感じがしてやまない。
あの時もそう感じたから、慌てて優樹のもとへ戻ったのだ。すぐに引き剥がして正解だったのかも。
ショウは浩司の事など気にも止めず、ずっと優樹の事ばかり見ているのだから。
その、獣の視線が本能でわかるのか、今までのトラウマのせいでただ知らぬ男が嫌なのか、分からない。
優樹は浩司に抱きついたまま、まだ離れない。離れようとしないのだ。
暫しの沈黙のあと優樹は、
「父さん、なんでその人が此処にいるの?
自分達は帰国した報告をしに来ただけなのに........その人は、関係ないよね?」
視線だけ父親に向けて、決して隣の男には目を合わせないように、気をつけて言った。
父親も一呼吸おいて説明した。
「優樹。浩司くんは向こうでの仕事の報告を兼ねて帰国したんだよ?その仕事の相方でもある彼は我が社にとってとても関係ある人物だ。優樹も顔合わせくらいしてるだろう?なら、いつまでも浩司くんに纏わりついてないで、挨拶をしてくれないかい?」
父親にそう言われては本当は嫌なのだが、従うしかない。
そっと浩司の目を見ると、軽く頷いて微笑んでくれた。
『大丈夫だよ』って囁いてくれた。
嫌々ではあるが浩司の膝から降りて立ち上がる。
そして、腰を90度曲げて頭を下げた。
「先日はどうも。田所優樹です。婚約者の浩司がお世話になってます。あと、もうすぐ相良優樹になりますのでよろしくお願いしますっ。」
優樹は捲し立てるように言い切ると、また浩司の隣に腰かける。
そして、父の方を向いて
「父さん、自分はこの仕事に関係ないよね?席をはずしたいんだけど良い?隣の部屋で待ってるから。」
そう言ってまた席を立とうとした。
なのに優樹の手を取り、浩司は首を振る。
『すぐに終わるから此処にいて?』と。
そんな声など聞こえていない父は、
「あぁ、別に構わないよ。もうすぐ俊樹も加わるからそれまではここで待ってるかい?」
「いい、俊とはいつでも会えるし。じゃあ失礼します。」
と、頭を下げた。
浩司の横を通りすぎるときに
『アイツの視線が怖いから......ごめん。隣で待ってるから。』
と、耳打ちして部屋を出ていった。