たった一人の甘々王子さま


そんなきょうだいの会話を遮るように父親の声が聞こえる。


「優樹、今日の夕方は忙しいのかい?」


読んでいた新聞を折り畳みながら優樹に声をかける。


「ん、自分?今日の夕方?」


優樹は母親の用意したサンドイッチをくわえながら父親の方を見る。


「あぁ、出来れば6時頃に会社まで来てもらえるとありがたいんだがな....」


そう言いながら父親はジャケットを手にして立ち上がる。


と、その時


玄関のチャイムが『ピンポーン』


「良樹さん、秘書の川村さんがおみえよ。」


玄関のモニターを見た母が父に声をかける。


「あぁ、今 行く。美樹、すまないが今夜は少し遅くなるよ。」


「わかりました。今日も気を付けてね。」


「ありがとう。行ってくるよ。――チュッ」


良樹はそう答えながら美樹の頬にキスを落とす。


子供のいる前でも夫婦のスキンシップは容赦ない。優樹も俊樹も馴れたもので、あえて突っ込まずスルーだ。


「優樹、大丈夫か?来てもらえるか?」


玄関に向かう途中、優樹に再度確認が入る。
父親の頼みで『会社に来い』なんてあまりない。
そんなに大事な話でもあるのだろうか......?


優樹は怒られるのかも......と、少し不安になり俊樹の方を見る。


見つめられた俊樹の方も『さぁ?なんだろうな....』なんて言う。


「わかった。遅れるかもしれないけど必ず行くよ。俊が一緒でもいい?」


もし怒られるなら双子なんだし道連れに......と、玄関で母から鞄を受けとる父に確認をする。


「はぁ?何で俺まで?」


俊樹が声を張り上げる。が、優樹はお構い無し。


「なぁ父さん、いいだろう?」


優樹はさらに念押しする。


「優樹が来てくれるなら俊樹が一緒でもいいさ。秘書には伝えておくから―――」


そう言って父親は迎えに来た車に乗り込み出社していった。

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