たった一人の甘々王子さま


「なぁ、美樹ちゃんは何か知ってる?」


優樹は父をお見送りしてリビングに戻ってきた母に聞いてみる。


「ん~何かしらね?わたしは何も聞いてないわ。優樹ちゃん、もしかして彼女できちゃったのが良樹さんにバレちゃったとか?女の子なんだから彼氏にしなくちゃダメよ?」


なんて冗談をいいながら良樹の飲み終えたコーヒーカップを持ってキッチンに戻っていく。


「ハハハッ!!美樹ちゃん、優に彼女なんて一人や二人じゃないよ~!数えきれないくらいいるって」


すかさず俊樹の突っ込みが入る。


「そう言えばそうかもね~。俊樹くんに負けじと優樹ちゃんもカッコいいもんね~。ママ鼻高々~」


母親らしからぬ言葉を言いキッチンで洗い物をする美樹。


『優じゃあるまいし......いくらモテても、俺はエミ一筋だけどね~ 。じゃぁな優、お先に。美樹ちゃんいってきまーす!』


優樹の腹立つ余分な一言を残して俊樹も出掛けていった。


「何だよ、二人して......」


最後のサンドイッチを頬張りながらモヤモヤした気持ちになる。
目覚めからしてイマイチなのに.........



―――――――――――――――――――



別に朝帰りしているわけでもなく、学業を疎かにしているつもりもない。


俊樹に比べれば多少学力は落ちるかもしれないが、バスケ一筋の優樹は大学卒業後は体育教師になるのが夢だ。


父親の跡を継いでいくのは長男の俊樹だ。
いくら男勝りの生活を送っていても所詮自分は女だ。先に生まれたからといって自分が跡継ぎに―――等とは考えていない。そこのところは優樹もわかっている。


将来の進むべき道が決まっている俊樹には申し訳ないと思いながら、自分の夢に向かって突き進ませてもらっている。


しかし、祖父の代から続く会社に迷惑をかける言動は取ったことはないつもりだ―――


「自分、父さんの怒りに触れることしたかなぁ~」


段々と不安になっていく優樹。
最後のミニトマトを口に放り込む。
優樹の眉間に縦皺が出来る。


「ねぇ、優樹ちゃん。時間大丈夫?」


サンドイッチを食べ終えても椅子に座ったまま考え事をしている優樹に母の美樹は声をかける。


「え?今、何時?ヤバッ!美樹ちゃん、ごちそうさま!いってきます!」


リビングのソファーに置いた荷物を掴んで優樹は慌てて玄関を出ていった。
そんな優樹の後ろ姿を笑顔で見送る母・美樹は独り言をいう。


「優樹ちゃん、今夜はあなたの王子様に会える日なのよ。王子様はずーっと優樹ちゃんの事を待ってたんだから――――」


走り去る優樹の後ろ姿に母親が掛けた声は聞こえていない―――

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