たった一人の甘々王子さま


「優樹、お待たせ。ご飯にしようか?」


浩司はスエット姿でリビングにやって来た。
風呂上がりだからラフな格好にしたのだろう。それでも優樹の心を乱すくらい浩司のその姿は格好いい。


ボン!―――――


瞬間沸騰したかのように、また優樹の顔が赤くなる。
やっと落ち着いた胸がまたドキドキする。


「優樹?どうした?晩飯、食べないの?」


浩司がリビングのソファーに倒れこんだままの優樹の側に近づきしゃがみこもうとする。


「だ、ダメ!こっち来ちゃ......!」


慌てる優樹が両手を突きだし浩司に制止を求める。


浩司も腰を曲げたところで停止する。


「優樹?」


「お願いだから、来ちゃダメッ!!」


思わずソファーにあるクッションに顔を埋め、浩司に背を向ける。


「何でダメなの?ご飯食べるよ。」


ほら、起き上がって―――――


優しく語りかけるが、優樹は背を向けたままだ。


「食べるけど............先に、そっち行ってて。」


そのままの姿勢で返事をする。


「優樹、何故?こっち見て。きちんと解るように話して。」


浩司が優樹の顔を隠しているクッションに手をかける。
勿論、優樹も離さない。


「優樹、理由は?」


もう一度問いかけながら、ソファーと優樹のからだの隙間に手を差し込みグイッと抱き起こす。


優樹はクッションで顔を隠しながら


「............恥ずかしいの。」


なんて、可愛らしい言葉が帰ってくる。


「......だからね、ご飯は........。」


クッションを少しずらして目線を浩司に合わせてようとした時、
優樹はギュッっと抱き締められた。


浩司の胸のなかに閉じ込められて、優樹は身を竦める。


「ねぇ、優樹........どうしてそう思うの?」


どうすることも出来ず、されるがままの優樹は


「........え?分かんないよ......。でも、恥ずかしいし........裸見たら、ドキドキしたもん。」


抱き止められたままの体勢で答える。
『こんなこと、初めてなんだから分かるわけないじゃん!』
と、言いたかったけど出来なかった。


「ふ~ん、そう。ドキドキするって、弟君やお父さんでも........同じかな?」


浩司の聞き方が何かしら含みを持った感じで聞こえる。


「そっ、そんなことないよ。」


浩司の腕の中から逃げ出そうとする。
が、しっかり抱き止められているので動けない。
やだもう、またか顔が赤くなる........!


「ねえ、離してッ!!お願いだからッ!
........浩司ぃ..............恥ずかしぃょ............。」


語尾は弱々しくなり、上目使いになりながら、優樹は浩司を見上げた。

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