ビターチョコ
私、そんなすごい高校に通っていて、いいのだろうか。
背中に嫌な汗が伝った。

そういえば、これくらいは見ておくべきと、学校の自習室で高校一覧進学ナビなるものを見た時があった。
私立の高校のはずなのに、何故か公立高校っぽいところもあるという学校説明会参加者の口コミを見た気がする。

『窮屈にしすぎると生徒は伸びない。
また、私立だから、公立だからなどという暗黙の了解に縛られていては、世界に名だたる人材が育たなくなってしまうから』
という設立者の考えの元に行っていることらしい。
その設立者が、麗眞くんの父なのだろうか。
ずっと考えていると、頭が混乱してくる。

朝のレーズンパンだけでは、脳への栄養が足りなかったらしい。

「話戻そっか。
……正直、頭がパンクしそう。
でも、いいの?
椎菜ちゃん」

「何が?」

「仮にも彼女さんが、彼氏さんのこと上から目線って言ったりして。
そういうの、ダメだと思うけど」

「ふふ。
大丈夫。
……よく勘違いされるんだ」

「ん?」

「私と麗眞なら、まだそんな関係じゃない。
幼なじみの腐れ縁よ。
今はまだ、ね?」

「そ、そうなの?」

どこからどう見ても、あの2人からはリア充の香りしかしない。

しかし、今はまだ、という感じで含みを残した言い回しは、今後恋人へと発展する気があることの現れか。

お互いによくない言動はぴしゃりと窘めるところ。
たまに、麗眞くんが椎菜ちゃんの頭を撫でるところ。
される側である椎菜ちゃんは、頭を撫でられると、耳まで顔を赤くする。

そんなところを近くで見ているからこそ、多大なる勘違いをしていた。
付き合っているわけではなかったのだ。

名前を呼び捨てにする人は、そういう関係なのだという、幼稚な思い込みをしていた。
猛反省しなければならない。

「とりあえず、学校戻ろ?
麗眞くん、心配してるから」

私がそう言って、促すように彼女の背中を軽く押す。
ふいに私のほうを振り向いた椎菜ちゃんは、私の目をまっすぐ見つめて、こう言った。

「……ね、理名ちゃん?
何かあったら言ってね?

理名ちゃんに助けられたから。
今度は、私が理名ちゃんの話を聞く番よ」

とびきりの笑顔と共に掛けられたその言葉。

私の心の中のどんよりとした曇り空を、気持ちいいくらいの快晴にしてくれたような感覚をおぼえた。


晴れやかな気分のまま、2人で歩きながら学校に戻る。
昇降口の手前に、待ちくたびれた様子の麗眞くんの姿があった。

「遅くね?
ま、椎菜が無事で良かった」


「麗眞、ごめん。
心配かけたね?
いろいろ話してたんだもん。
ね?」

椎菜ちゃんの、その言葉に私が頷く。
すると麗眞くんは、彼女の頭をそっと撫でた。

……出た。
この2人を思い出す時に、真っ先に頭に浮かぶ映像がこれだ。

「奥義 頭なでなで」とでも言うべきか。
そんな様子を傍から見たら完全にリア充にしか見えない。
本人たちにはその意識がない、というのが至って不思議だった。

さらに不思議なのが、今隣にいる男の子はお坊ちゃまということ。
そんな雰囲気は全く感じられない。
ちょっとチャラい今時の高校生、という雰囲気だ。

「お昼食べたの?」

「え?
食べてないけど」

「話してただけなのかよ、もう。
ったく、早く食えよ。
あと15分で終わるぞ、昼休み」


教室に戻って、手早くお昼を済ませる。
終始無言だったが、早く食べ終えるためだ。

私も椎菜ちゃんも、コンビニで買ったサンドウィッチ1つだったため、15分経たないうちに食べ終えた。


チャイムが鳴って10分後に、よいしょ、という声とともに、担任の先生が入ってきた。

『席につけー
ホームルーム始めるぞー』


それを合図に、生徒たちはだるそうな雰囲気で席につく。
もちろん私と椎菜ちゃん、麗眞くんも。
先生は、適当にグループを組むように指示した後、生徒たち一人一人の机に宿泊学習のしおりを置いて回っていく。


『いいかー、1グループ、5、6人だぞ』


気付いたら、私たちの周りではもうグループが完成していて、ワイワイガヤガヤと好き勝手に私語をしているようで、とっても騒がしい。

……もしかして、もしかしなくても……
グループ出来てないの、私達だけなの?
< 10 / 228 >

この作品をシェア

pagetop