ビターチョコ
私が思った時だった。
ガラリと音を立てて、教室のドアが右方向に開く。

「先生、遅くなりました!」

「……すみません」

お互いの肩を抱くようにして入ってきたのは2人の女の子だった。


1人は、私より身長は低いが細身の子。
黒い髪をミントグリーンのシュシュでポニーテールにしている。
私のように眼鏡はかけていない。
元々視力がいいのか、コンタクトレンズを入れているのかは、さすがに距離が遠く、今の時点では判断できない。

もう1人はボブヘアが似合う小柄な女の子。
身長はお世辞にも高いとはいえなかった。
ポニーテールの子より、身長は低く、顔色も少し悪いようだ。

明らかに、持病という名の爆弾を抱えていると分かった。

何度か咳き込んでいるところを見ると、喘息であるようだ。

発作が起きたときだけ薬を吸入して凌ぐ人は多い。
だが、それでは、より喘息を悪化させるのだけである。
気道が敏感になり、発作を起こしやすくなってしまう。
そして、気道がより狭くなり、また発作を起こす。
負のスパイラルから抜け出せなくなってしまうことになる。

仮にも、看護師の母の姿を間近で何度か見ているのだ。

さらに、幼い頃から母の部屋の本棚からこっそり「人間のからだのしくみ」などの易しい本を持ち出して読んでいた。

医学に関する知識は、そこら辺の高校生より豊富だという自負もある。
こんなことも分からないようでは、医療従事者の娘失格だ。


「大丈夫なのか?
柳下《やぎした》……」
 
先生が心配そうに柳下と呼ばれた女の子のほうを見る。

「だいじょうぶ、です」

コホコホと咳き込んでから答える、そのさまを見ると、本当に大丈夫であるのかは怪しい。
まぁ、保健室にいる養護教諭が判断したのならそれでいいのだろう。

プロの領域に素人が口を挟むべきではない。


「そうか、じゃあ早くグループになれ」


そう言って、先生は私たちのほうを見た。
……何で私たちのほうを見るのよ。
恨めしげに先生を睨みつけた。

しかし、周りを見渡すと既に私たちのところ以外のグループは完成していて、暇だと言わんばかりに、思い思いに、私語をしている。

……仕方がない。
遅れて教室に入ってきた子たちが、まっすぐ私たちのところに歩いてきた。

「私、浅川 深月《あさかわ みづき》って言います。
よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げたその子に、麗眞くんと椎菜ちゃんが無言で微笑んだ気がした。
知り合いなの?

おずおずと後ろにいた子も、ゆっくり私たちの前に足を踏み入れた。

「柳下 碧《やぎした みどり》です……
よろしく」

それだけ言うと、浅川深月と呼ばれた子の後ろに下がってしまった。

「にしても。
何、このハーレム状態。
ウケるんだけど。
まぁいいわ。
楽しくなりそうだしね」

彼女は、麗眞くんと椎菜ちゃん、私を交互に見て言う。
浅川深月という名前の女の子に言われて、今さら気が付いた。
彼女も柳下碧という子も、椎菜ちゃんも私も女子なのだ。

男子は麗眞くんのみ。
いいの?

それを確認するように、横目で麗眞くんを見たが、彼は何も気にしていないようだった。

彼は椎菜ちゃんといれればいいのだろう。
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