白い海を辿って。

ごまかしても仕方がないと思い理瀬さんとのことを正直に聞くと、彼女は分かりやすく困惑した。

先生は浮気なんてしていない、ただ仲良くしてもらっていただけ。

そう話す言葉からは、理瀬さんを守ろうとする強い気持ちとどうしようもないやるせなさが伝わってきた。


こんな寂しげな表情を、俺ならさせない。

俺には離婚とか奥さんとか、そんなややこしい話もない。

ただ彼女だけを想うことができる。


2人のことを探るよりも、俺は俺で彼女のことを知っていきたいと思った。



『私もです。』


彼女の一言に、一瞬自分が何を言ったのか分からなくなる。



『私も、まだ一緒にいたいです。』

「…え?」


一歩先にいる彼女が、おそるおそるという風に言う。

その言葉を信じられないような気持ちで聞いた。



『このまま、帰りたくないです。』


小さいけれど、とてもはっきりとした意思を感じる声だった。

つい手を伸ばしそうになって、ぐっと抑え込む。


抱きしめたいと思う気持ちと大きく揺さぶられて速くなる鼓動を、必死で静める。



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