白い海を辿って。

大切にしたい。

軽く触れて壊してしまわないように。

そう思う関係が、今ここにあった。



「向こうにベンチがあるから座ろうか。」


苦しいくらいに胸を掴まれていることに気付かれないように先を歩く。

そっと振り返り、少し距離をあけてついて来る彼女を見る。

いつの間にか羽織っているだけだったジャケットに手を通していて、その不釣り合いな大きさが可愛い。



「本当に大丈夫?」

『はい。すみません、変なところを見せてしまって。』


ベンチに並んで座ってから聞くと、彼女がまた謝る。

謝ることなんて何もないのに、俺のせいでそう思わせてしまうことが情けない。



「変じゃないし、変だなんて思わない。」

『先生に触れられたことが嫌だったわけじゃないんです。本当です。』


それを必死に伝えようとしてくれている彼女に、また胸を掴まれる。



『ただ、』


何かを言いかけた彼女の言葉は、そう言ったきり途切れてしまった。



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