白い海を辿って。
今目の前の彼女だけを見ていればいい。
早見先生の言葉は前向きなようにも後ろ向きなようにも聞こえた。
今彼女が見ているのは俺だとしても、過去に見ていた人は知らない。
知る必要はないと、早見先生は言いたかったのだろうか。
彼女を自分だけの存在にできたと、過去から彼女を救えたと、昨日そう思った。
俺の腕の中で眠る彼女を知って、彼女への気持ちがとまらなくなってしまったようで自分でも怖い。
「あぁ、」
信号に引っかかって停まった車の中でひとり声を漏らす。
こんなに好きになってどうするんだよ。
こんなに俺だけのものにしたくなって、どうするんだよ。
もう彼女を怖がらせないと決めた。
冷静に、冷静にと自分に言い聞かせる。
今俺と一緒にいてくれるならそれでいいじゃないかと、無理にでもそう思おうとする。
過去は、理瀬さんは、関係ない。
関係ないと、必死で思おうとしたのに。