白い海を辿って。
『バカなこと言うな。俺はな、もう二度と、絶対に明日実をあんな目にあわせたくないんだ。傷つけたくないんだ。』
私の肩を掴み、まっすぐに目を見つめる彼の目にも涙が溜まっていた。
こんな風に、自分のために必死になってくれる人がいる。
そのことが嬉しくて、だけど申し訳なくて、彼より先に涙が落ちた。
『大丈夫だから。しばらく待っててくれ。』
もう1度抱きしめてくれる腕が優しくて、心強くて。
でも、自分だけが安全な場所で待とうとしていることがやっぱり申し訳なくて。
何ひとつ整理できずにぐちゃぐちゃの感情を抱えたまま、私は彼の傍から離れた。
連絡を毎日取り合いながら、お互いの生活に何の異変も起きていないことを確認しあう日々が始まった。
仕事の行きは兄が、帰りは倫子さんが送ってくれている。
休日はほとんど家から出ない日々の中で、彼に会いたい気持ちがどんどん大きくなっていく。
このまま何も起きずに、またあの穏やかな日々に戻れたらいいのに。
考えることは、いつもこればかりだ。