毒舌紳士に攻略されて
坂井君は私が忘れているって言っていた。坂井君が私を好きになった理由を――……。
でも坂井君と出会ったのは入社してからだし、今まで言葉を交わした回数も数えるほどだった。
社内でももちろん接触を持ったことなんてない。
なのにいつ私のことなど好きになってくれたのだろう。

そもそもそれを教えてくれない時点で怪しいとさえ思ってしまう。
もしかしてまた昔のように騙されているだけなんじゃないかって――。

ふと昔の嫌な記憶が頭をよぎってしまい、慌てて消すように残りのビールを飲み干した。

「やだ。私はめぐみの方が信じられないんだけど」

「え?」

琴美を見れば、なぜか「信じられない」と言いながら希少生物を見るかのように見つめてきた。

「普通さ、坂井にそこまで熱烈アプローチされたら疑わないでしょ。逆に坂井が不憫に思えてくるんだけど」

「えっどうして!?普通に信じられないじゃない!だってあの坂井君だよ?いきなり嫁になれとか、実家に連れていくとかさ、普通の人がすることじゃなくない?」
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