毒舌紳士に攻略されて
最悪だ。どうしてこういう時に限って鉢合わせしちゃうのかな。

今は早く一人になりたくて堪らないのに――……。

「ごめん、先に帰るね」

「は?どうしてだよ」

「どうしてって言われても……」

案の定、納得してくれず『帰さない』と言わんばかりに腕を掴まれてしまった。

「せっかく仕事早く終わりにしてきたんだけど」

「ちょっと用事が出来ちゃって」

「なら送るよ」

一歩も引き下がらない坂井君に、どうしたらいいのか分からない。
でもあの場所にはもう戻りたくない。
彼がいるあの場所になんて、絶対に――……。

昔の記憶が頭をよぎり、苦しいくらい胸を締め付ける。

「……っごめん!」

「あっ、おい佐藤っ!?」

悪いとは思いつつもこれ以上坂井君と一緒にいるのが辛くて、思いっきり腕を払いのけ店を飛び出した。


この世には絶対神様なんていないと思う。
せっかくトラウマから解放されて、新しい恋愛ができそうだったのに、どうしてこのタイミングで会ってしまったのだろう。

高校時代、好きになって裏切られたあの人に――……。


沢山の人で溢れる繁華街を走り抜けていく。
辛い記憶が蘇ってしまい、瞳からは涙を流しながら――……。
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