毒舌紳士に攻略されて
家に帰ってきたらいつの間にか電池が切れていて、それからずっと充電もすることなくそのまま。

怖かった。
坂井君から連絡があっても、なくても。
メールや電話がきても読むのも聞くのも怖いし、逆に、メールも電話もなかったらショックだ。
どちらも怖いのだからどうしようもない。

「琴美……怒っているかな?」

スマホを胸の前で抱えたまま、瞼を閉じる。
すると自然と浮かんでくるのは、怒っている琴美の姿。

きっと想像している通り怒っているんだろうな。
「どうして連絡取れないの!?」とか「なんで頼ってこないのよ!」とか。
色々言われて怒られちゃうだろうな。

琴美のことを考えていると、少しだけホッとする。

琴美に話したい、頼りたい。
でもそのためにはスマホの電源を入れなくてはいけない。
それがどうしてもできなかった。

「私、こんなに弱い人間だったっけ?」

確かに琴美のように、自分の気持ちをちゃんと相手に伝えることは苦手だし、NOとはなかなか言えない。
でもこんなに弱かった?臆病だった?
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