毒舌紳士に攻略されて
“ごめん”

たった一言だけ打たれた文字を見つめては、深い溜息が漏れてしまう。

「あ―……もうマジで最悪」

スマホを両手で握りしめたまま、項垂れてしまう。

点けっぱなしのテレビからは、陽気な笑い声が聞こえてくるが、どんなに面白い漫才を見せられようが今の俺は笑えそうにない。
こうやって瞼を閉じると真っ先に思い浮かぶのは、あの日の佐藤の言葉と、今にも泣き出してしまいそうな顔。


「最低だよ。……坂井君なんて大嫌い」


“最低”に“大嫌い”そして軽蔑したような眼差し。
見事にトリプルパンチを食らった気分だ。

いまだに笑い声が聞こえるテレビを消し、リビングを後にする。
そして向かう先は自分の部屋。
部屋に入り、机の引き出しにしまってある女の子らしい、ピンクのハンカチをそっと手に取る。

数年前にもらったハンカチは、当時と比べすっかりと色褪せてしまっている。
なんせ受験や試験のたびに持ち歩いていたし、ちょっとでも汚れるとすぐにクリーニングにかけていたからな。色褪せて当然だ。
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