毒舌紳士に攻略されて
それはしっかりと坂井君に伝わってしまっているようで、妖しい雰囲気を出しながら上から見ている。

「じゃあよく考えてみてよ。俺、けっこうお得物件だと思うしさ」

「お得って……!あっ、ちょっと!?」

言うだけ言って、さっさと行ってしまった坂井君。
こちらを見ることなく「じゃーな」の合図なのだろうか。手を振っている。

坂井君が去った今も、騒がしい社員食堂内。
こちらを見てはヒソヒソと囁く声も聞こえてくる。

「……これって夢、なのかな?」

おもむろに頬を抓ってみるものの、しっかりと痛いからどうやら夢ではなさそうだ。
だったらさっきの坂井君の話は本気なのだろうか……?

だって信じられる?つい最近までただの同期で、同期会ぐらいでしか顔を合わさなかったし、話なんて全くしていなかったのに!

おかしい……坂井君、やっぱりおかしいよ!!

この日の午後は坂井君のことで頭がいっぱいで散々だったし、全く仕事に集中することが出来なかった。
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