毒舌紳士に攻略されて
先ほどとは違い力ない声で反論したものの、まるで効力を発揮していないようで、頭上からは坂井君のクスクスと笑う声が聞こえてきた。

「あのさそれ、かなり意味ないけど?」

そして私の身体を離すと、意味ありげな笑みを浮かべては至近距離で見つめてきた。

「……っ!」

吐息さえも感じられてしまうほどの距離に、声が出ない。

どうしてこんなにも坂井君に振り回されなくてはいけないのだろう。
苦手で関わらないようにしてきたのに。

「なんだかんだ言いつつ、佐藤だって俺のこと気になっていたんだろ?」

いたずらっ子のような笑みを浮かべ、私の腰に腕を回したままずいぶんと自惚れたことを言ってきた。
それが悔しくて、つい本音を漏らしてしまった。

「そっ、そんなわけないから!……第一坂井君、自分で言っていたじゃない!私が坂井君のことを避けていたことを知っていたって。……私にとって坂井君は苦手な存在でしかないの!」

言った瞬間、坂井君は驚いたように目を見開いた。

でもこれは本当のことだ。
第一印象からずっと苦手でしかなかった。
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