毒舌紳士に攻略されて
「どういうつもりで実家まで連れて来たか知らないけど、これから先も私が坂井君を苦手なことは変わらないから」

同期会の幹事を一緒にやってから、なにかと流されてばかりだったけれどこれだけはハッキリと伝えたかった。
もう昔のような辛い思いだけはしたくないから。

決意を固める意味で坂井君に伝えたものの、なぜか坂井君は酷く傷ついたように表情を歪めた。
その姿に今度はこっちが目を見開いた瞬間、坂井君はバツが悪そうに舌打ちすると腰に回していた腕を離し、顔を背けてしまった。

なっ、なによ。
どうしてそんな顔をしちゃうわけ?
さっきまであんなに自信満々に言っていたくせに。……どうして私の一言で傷ついた顔しちゃうのよ。

坂井君は何も言わず背を向けたまま。
どうしたらいいのか分からない状況の中、坂井君の背中を見つめているしかなかった。

「……あら?やだ、どうして入ってこないの?」

そんな時、少しだけ玄関のドアが開くと同時に聞こえてきた声。
次の瞬間、思いっきり開かれたドア。

「げ。……母ちゃん」

母ちゃん!?

ギョッとしつつ玄関から出てきた女性へと自然と視線は向かっていく。
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