毒舌紳士に攻略されて
「はい」

ここまで来てしまってはもう今更「帰ります」とは、言えそうにない。
覚悟を決め、お母さんの後に続いて上がろうとした時、肩に手が置かれた。

その手の主はもちろん坂井君で、さも「いい気味だ」と言いたそうに笑いながら私を見下ろしていた。

「なによ」

不本意ながらもこうやって坂井君の実家に上がることになってしまい、怒りをぶつけるように睨みながら小声で囁く。
すると坂井君は、ますます楽しそうに表情を緩めた。

「別に？ただひとつだけ忠告。母ちゃんも親父も、佐藤が俺の嫁になると信じて浮かれているから」

「なっ！」

つい大きな声が出てしまい、慌てて両手で口を塞ぐ。

しっ、信じられない。
私は坂井君の彼女でもないのに！

口を押さえたまま坂井君を睨むものの、ますます面白そうに笑うだけ。
そしてわざとらしく私の耳元に顔を寄せ、囁いた。

「くれぐれもボロ出すなよな？母ちゃんも親父も、怒ると手に負えねぇから」

「っ！」

最後に耳に息を吹きかけられた瞬間、すぐに耳元を押さえるものの、熱くて仕方ない。
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