彼と私と秘密の欠片
「とうちゃん。えいたがおれのカレー食べようとするー」
慶太君のその声を聞いて、私ははっと我に返って、慌てて写真から視線をそらせた。
見てみると、誠司さんが哺乳瓶を持って台所から戻ってきたところだった。
「ああ、ほら、栄太、おいで」
誠司さんは栄太君の目の前で哺乳瓶を横に振り、栄太君を誘う。
栄太君は面白いくらいすぐに反応して誠司さんの方にはいはいしていく。
「よいしょっと」
誠司さんは栄太君を抱っこして、誠司さんの場所に座り直した。
そして哺乳瓶の乳首を差し出すと、栄太君はすぐにくわえて飲み始めた。
「それってジュース? すごい飲んでるね」
哺乳瓶の中身は、リンゴジュースみたいな透き通った茶色で、栄太君の口の動きに合わせてどんどん減っていく。
「うん、ジュースっていうより、やっぱり果汁かな。これはリンゴの。あ、でもベビー用のジュースっていうべきなのかな。普通のジュースみたいに果汁以外にはほとんど何も入ってないんだ。味が薄いから俺達が飲んでもそんなに美味しいとは思わないけどね」
「へえー、そんなのあるんだ」
栄太君を見ていると、誠司さんが哺乳瓶を持って支えているのに、栄太君も自分で持ちたいのか、両手で哺乳瓶をしっかり挟んでいる。
「一生懸命だね、栄太君」
「うん。食べる時と飲むときはすごいんだ。さっきも言ったけど、こいつ、すごい食いしん坊だからさ。普通、これくらいの時はそんなに食べないらしいんだけどね。……産まれての時は本当に細くって、大丈夫かと思ったけど。でも今は、ちょっと太り気味で困ってるぐらいかな」
困ってる、と言いながら、誠司さんの顔は笑顔だった。
それは親バカだからとか、そんな理由じゃないと思う。
どちらかと言うと、安心してほっとしているというか、そんな感じだった。
でも、それもそうだろう。
栄太君は、奥さんが、命がけで産んだ子供。
栄太君自身も、未熟児だったのだから、今はそんなことなんて嘘みたいにぷくぷくとしている。
それが、誠司さんにとっては喜ばしいことなんだろう。