最低王子と恋の渦




「…ふぅ」





用を足した私はトイレから出て、また壁に掛かった別の写真を眺める。



だってなんかすごく貴重な気がする。

三鷹くんの小さい頃なんて初めて見た。



まあ当たり前なんだけどさ…。






笑顔でお母さんに抱っこされている小さな三鷹くん。


こんな無邪気な笑顔してたんだ。





今でもごくたまにこんな笑顔をしてる気がする。


…もっとすればいいのにな、とは思う。








……私、三鷹くんの過去とか全然知らないな。













「何してるの?」




「えっ」









声のした方にビクッと肩を跳ねさせて振り返った。


そこには壁にもたれて首元をさすっている三鷹くんがいるではないか。



私は慌てて笑ってみせた。








「な、何もっ」



「…写真見てた?」



「ん、んー?まあ…少し?」



「別に隠さなくていいよ。壁に掛けてるんだから見られても仕方ないし」







そう言いながら三鷹くんはこちらに近付いて来て、さっきまで私が見ていた写真を見つめた。






…なんか、三鷹くんにバレそうな気がして。




私が…三鷹くんのこと知りたいって思ってたのが。




















「…他のも見る?」


















そう言った三鷹くんは私を穏やかな目で見下ろしていた。



私はすぐにその意味を理解出来ず、少し間を空けて反応する。









「…えっ!?」



「俺の部屋にアルバムあるよ」



「…い…行ってもいいの…?」



「田中さんなら」













〝田中さんなら〟







思わずにやけてしまいそうになったのを必死で堪えていると、三鷹くんはスタスタと階段の方へ向って歩き出した。




私も慌ててその後を付いて行く。




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