最低王子と恋の渦
「…珠妃にはずっと憧れてる漫画家の人がいるみたいでさ、今度大阪でその人がサイン会も兼ねてちょっとした講演するらしくて…。その漫画家は普段全くそういう講演みたいなのしないそうなんだよ」
だから珠妃すげえ行きたいみたいで、と言いながら友也は困ったように笑った。
そういえば確かに、前珠妃ちゃんが「この漫画家すごい好きなの!」って嬉しそうに言ってたような。
きっとその人の事だろう。
「でも珠妃に大阪まで行くような金ないらしくて、諦めるっつっててさ……。行かしてやりたいじゃん…」
「友也…」
なんって妹想いなんだろう。
友也は照れくさそうに笑って、ハアと溜息をついた。
「そんでお金貯める為に短期のバイト始めたって事、かな。
…まさか初出勤の日に美乃があんな事故に逢うなんて思わなかったよ」
「あ、あはは…」
「でも今日は風邪だって聞いて…向こうの人に無理言って早めに仕事抜けて来たんだ」
そうだったのか…。
友也はチラリと三鷹くんを見て、また困ったように笑った。
三鷹くんは終始肘を付いたまま、今度はニッコリとした笑顔を友也に向ける。
「それなのに田中さんの家行くと俺と田中さんが二人っきりだったから殺意が湧いた、と言う事だね」
三鷹くんはサラリとそんな事を軽く言ってのけた。
私と友也はぎょっとして三鷹くんを見る。
「さ、殺意なんて湧いてねえよー!」
「え? そうかなぁ。俺ならこんな状況、怒り狂って奇声上げながら暴れてるけどね」
「それは怖すぎるよ三鷹くん」
「田中さんの顔面には劣るよ」
「ど失礼な!!」
ニッコリしたまま言う三鷹くんは、やっぱりいつもの三鷹くんだった。
…こんな性格じゃなければなぁ。