シンデレラは硝子の靴を

空になった缶の、カラカランという軽快な音が、場の雰囲気に似合わない。


粉を被ったとはいえ、沙耶の目にはちゃんと高い背の持ち主が見えている。


けれど、口を開いた瞬間、確実に粉が入ってくる。




「…もう一回訊くけど。俺の机、触った?」



入り口に寄りかかる、黒のトレンチボーイ。



その顔はやたら険しい。


いつにも増して、不機嫌丸出し。



首を横に振れば語弊がある。


しかし、縦に振るには危険な気がする。




「・・・・・・・」



迷った末、沙耶は無言のまま、首を傾げて見せた。


腕組みをして、見つめる石垣の表情は益々険しくなる。



「ふざけてんの?」



断じて違うと言いたい。


だが、言えない。



この際苦さを覚悟して口を開こうか。



でも嫌だ。



沙耶の中で葛藤が始まる。



ただ、石垣の表情が殺意を孕んでいるようにしか見えない。




「何やった?」


「―?」



続く石垣の言葉に、沙耶は不意を突かれる。



意味がわからずに、目を瞬かせていると、石垣はゆっくりと沙耶に近づき、しゃがみこんだ。


尻餅をついた格好の沙耶と、石垣の視線の高さが等しくなる。



「主が居ない間に、何をやったんだよ?」




「!」





そこまで言われて沙耶はやっと気付く。



自分は疑われているのだと。

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