シンデレラは硝子の靴を

信じられないものでも見るかのような目つきで、沙耶は石垣を見た。



―何も、やってない。




「なぁ、なんで急に俺の秘書やる気になったの?」




石垣が距離を縮めるので、必然的に沙耶もじりじりと後ろに下がる。




「あんなに嫌がってたのに。もしかして、誰かに買収された?」




トン、と背中に固い物が当たり、沙耶はキッチンの下の戸棚に当たったのだと理解した。



つまり、もう下がれない。



石垣は沙耶の頭を挟み込むように、シンクの縁に両手を置いて、逃げ道を塞ぐ。



―何言ってんの、こいつ。




「―坂月?」



次に落ちてきた言葉に、沙耶は目を見開く。



「……あんた、馬鹿?」



口を開いた瞬間、予想以上の苦さが舌に広がった。



「どれだけ、人を信用してないのよ。」



けれど、それ以上の苦さが、沙耶の心に痺れをもたらしていた。



「私を疑うのはまだいい。けど、坂月さんはあんたの直属の部下でしょうよ。」



言いながら沙耶は、石垣を睨みつける。



「あとね、確かに私はあんたを呼びにあんたの部屋に入ったけど、つまづいて転びそうになった時に手を机の上に着いちゃっただけで、残念ながら何にもしてませんよ!ついでに言えば、何の書類かもわからないし読む余裕もなかったわよ!」


「うっ…」



同時に思い切り石垣に頭突きした。


珈琲の粉が散り、石垣がひるんだ所で手を払いのけ、沙耶は勢いよく立ち上がった。


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