シンデレラは硝子の靴を
「あ、ちょっと待て。」



ドアに手を掛けた所で、石垣に呼び止められた。



「何よ、降りろって言ったり待てって言ったり…」



「―それ、持ってかなくていいだろ?」



沙耶がぶつぶつ言いながら振り返ると、石垣が沙耶の手の部分を指差す。



「だ、駄目駄目!何かあったら困る!」



沙耶は首を振りながら慌てて手にしたものを、背中に隠した。



「そんな安い服、誰も盗りゃしねぇよ、置いてけって。」



「わかんないじゃない!」



「警備員が居るし、大丈夫だって。」



石垣が珍しくやんわりと沙耶に言い聞かせるも。



「絶対嫌!そもそもあんたが一番信用できないのよ!」



坂月から受け取った紙袋。



沙耶はそれをぐっと握り締める。




「チッ。仕方ねぇな…。」



石垣は腕時計で時間を確認すると、渋い顔で呟く。



そして。




「―いいか。俺が良いって言う時以外は、この敷地内で絶対に口を開くなよ。」



「え?」




気になり過ぎる命令を残して、先に車を降りた。



しかし、そんなことよりも沙耶にとって気がかりなのは。






「…つーか、よりによってここかよぉ~」




降りる寸前、誰も居ない車内に沙耶の独り言が響く。





―まぁ、近くってだけだし、あのばばぁと会う訳ないし、大丈夫よね。




車内に留守番していたいのを堪え、自分に言い聞かせた。





ドアを開けた瞬間、どこからか香る秋の香り。







まさか、秋元家の本家の近所に、石垣の叔父の家があろうとは。




偶然とは、時として酷だ。

< 168 / 416 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop