シンデレラは硝子の靴を
沙耶の予想では、ミュアンホテルに連れて行かれて、従業員室か何処かで、マネージャーとか支配人とかに怒られる筈だった。



―でも、確かに、そんなことでロールスロイスが来るわけないか。いや、じゃなんでロールスロイス!?




沙耶の頭の中はパニックになっていた。



同じエレベーター内の坂月の様子をチラリと伺うが、その表情は穏やかそのもので、沙耶のことなど何処吹く風だ。



―よくわかんないけど、良い気なもんだわ。



逆恨みと呼ばれても構わない。沙耶の心は荒む。


あんな良いホテルに勤めてて、こんな良いスーツを着て、こんな大きな会社に出入りする。


慎ましい生活を送り、さらに一日にして無職になった沙耶とは偉い違いだ。



―お金があれば、人はこんな風に穏やかになれるものなのかしら。



そこまで考えて、ブンブンと首を振った。



違う、それだけは絶対に違う、と。



自分達にされてきた仕打ちを考えれば、払拭しなければならない思考だった。



やがて、坂月の栗色の髪に目がいって、ふと昔の記憶が甦る。




散々苛められていた自分の、傷だらけの手を引いてくれた男の子。




『僕が、守ってあげる』




そう言ってくれた、男の子。





―あの子は、一体なんていう名前だったっけ。




今頃、何処でどうしているだろう。
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