シンデレラは硝子の靴を
コンコンとノックの音に続き、物思いに耽っていた諒ははっと我に返った。


返事を待たずに扉が開く。



「おはようございます。秘書がいなくても起きられるようになって感心ですね。」




定時よりやや早めに出社した楓の言葉が、皮肉に聞こえる。


沙耶との接触を持つ際に、楓には付き合ってもらったが。


楓へ心を許したような沙耶の態度は、癪に障った。


つまらない嫉妬も沢山、した。





「あ、そうだ。秋元さん、今日マンションを出るって言ってました。」




「―え?」




楓の挨拶を無視してデスクに向かっていた諒も、思わず顔を上げる。




「どういうことだ?」




問い返せば、楓は驚いたような顔をした。




「ご存知無いんですか?仕事を辞めたのだから当たり前だろうと仰ってましたけど。。」



「行き先は?」




咄嗟に問えば、楓は表情を曇らせる。




「それが…知りません。訊かないことを望んでらしたので。」





「っっ」





諒は慌ててコートだけを引っ掴んで、部屋を出た。





またか。




また、居なくなってしまう。





やるせなさにも似た焦燥感に、ただただ、駆られて。
< 329 / 416 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop