シンデレラは硝子の靴を
「ご無沙汰しています。諒です。」
諒が顔を出すと、暖炉の前のソファに座っていたらしい女性が立ち上がって振り返った。
どうやら読書中だったようで、片手にはひざ掛けが握られ、文庫本が傍に置かれている。
「あら、本当に珍しいお客様ね。」
滅多に表に出てこない深雪に会うのは、10年ぶりだった。
現在は50を過ぎた歳だと記憶しているが、年齢に不相応な程若く見えた。
念入りに染められた髪色のせいかもしれないが、初対面で彼女の年齢を言い当てることが出きる人間は、多くないのではないか。
「ありがとう、下がって良いわよ。そうそう、暖かいお茶を持ってきてくれるよう頼んでくださる?紅茶が良いわ。」
諒の背後で、深雪の反応を固唾を呑んで見守っていた男は、彼女の指示に安堵の息を吐いて一礼し、その場を立ち去った。
「―突然、申し訳ありません。」
諒が詫びると、深雪はいいのよ、と笑った。
「そんな所に立ってないで、どうぞ中に入って座って?」
「…失礼します。」
諒は、勢いで押しかけてはみたものの、肇相手ならまだしも、深雪相手にどう出るべきかまとまっていなかった上、穏やかな彼女の応対に面食らっていた。
当然だが、10年前の彼女の印象は薄い。
だが、彼女の夫である肇は高圧的で、独占欲の塊のような人間だから、深雪も同じと決め付けていた部分があった。
諒が顔を出すと、暖炉の前のソファに座っていたらしい女性が立ち上がって振り返った。
どうやら読書中だったようで、片手にはひざ掛けが握られ、文庫本が傍に置かれている。
「あら、本当に珍しいお客様ね。」
滅多に表に出てこない深雪に会うのは、10年ぶりだった。
現在は50を過ぎた歳だと記憶しているが、年齢に不相応な程若く見えた。
念入りに染められた髪色のせいかもしれないが、初対面で彼女の年齢を言い当てることが出きる人間は、多くないのではないか。
「ありがとう、下がって良いわよ。そうそう、暖かいお茶を持ってきてくれるよう頼んでくださる?紅茶が良いわ。」
諒の背後で、深雪の反応を固唾を呑んで見守っていた男は、彼女の指示に安堵の息を吐いて一礼し、その場を立ち去った。
「―突然、申し訳ありません。」
諒が詫びると、深雪はいいのよ、と笑った。
「そんな所に立ってないで、どうぞ中に入って座って?」
「…失礼します。」
諒は、勢いで押しかけてはみたものの、肇相手ならまだしも、深雪相手にどう出るべきかまとまっていなかった上、穏やかな彼女の応対に面食らっていた。
当然だが、10年前の彼女の印象は薄い。
だが、彼女の夫である肇は高圧的で、独占欲の塊のような人間だから、深雪も同じと決め付けていた部分があった。