シンデレラは硝子の靴を
諒の母親が亡くなってから、石垣家と佐伯家は疎遠になっていた。



間を繋ぐ縁が無いからだ。



諒も同時期に父親と渡米し、日本に残った楓と会う事も少なくなった。



再会は帰国後。



父親の会社に入社した頃、久々に楓に会って、楓も日本で飛び級し、諒と同じ年で大学を出たことを知った。留学も一年程したらしい。



最初は、親戚のコネ入社かと考えていた。

だが、直ぐに楓が努力の人間であることを知った。

物腰の柔らかさと実力も兼ね備えていた。



同時に欲の少ない人間だと思っていた。


だから、今回のような事を画策したとは考えにくいのだ。




―楓は義弟に当たるからな。





もしかしたら、叔父に唆された、という可能性はないだろうか。


本人が会う気がないのなら、その妻―楓の実姉に訊いてみるしかない。




「深雪様。」



短いノック。


外観の日本家屋とは不釣合いな、洋風のドア。


道案内をしてくれている男が、控えめに主の名前を呼ぶ。



高く小さな返事が聞こえると、男はドアを開けて「失礼致します、お客様がお見えです」と伺うように伝えた。




「客人?私に?」



ドアの向こうから、驚いたような声が聞こえ。



「どなた?」



男は返答に窮し、ちらりと諒に視線を送ると、一歩下がって道を譲った。

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