シンデレラは硝子の靴を
「―坂月さんは、、確かに、私と似てます。自分ばっかりが苦しすぎると思ってるから、自分のことだけしか見れなくて、他の人の思いも決め付けて…結局逃げてる。」



言葉に表わさずとも、諒とのことを言っているのだということが、坂月にはよく分かった。





「秋元さん…貴女はやっぱり、諒の事―」



問い掛けるが、沙耶はそれを遮る。





「戻れない道なんか、ない。立ち止まれば必ず見つかる筈です。でも、もしも―」





言いながら、沙耶は席に掛けてあったダウンジャケットと鞄を手に取る。





「もしも、坂月さんが立ち止まれなかったから、その時は、少しだけ私がストッパー代わりになるから。だから、ちゃんと、、石垣と、、それからお父さんとも、向き合ってください。」





「え?」




訊き返した坂月に、沙耶は既に背を向けていた。





「ちょっとま…」



慌てて呼び止めれば、沙耶は背を向けたままで。





「…いつだったか、言いましたよね。坂月さん。ミュアンホテルのミュールアンピエール、はフランス語で石垣っていう意味だって。」




私を騙して、とぶつぶつ付け加えている。





「私に二度、同じ手は通用しないって、ちゃんと覚えといてくださいね。」





ふんっ、と鼻を鳴らして、沙耶は今度こそ出て行く。










跡に残された手付かずの料理と、男一人。



冷たい氷と水が、ポタカラリ、と音を立てる。




坂月は、目を隠すように、手を額に当てた。






「…ふ……はは……」






沙耶の最後の言葉に、そういえばそんなことがあったなと、笑いが込み上げる。




だから、沙耶は手帖の鶴の意味を悟ったのだ。


そのことがあったから。





「ほんと……敵わないよ…」




自分にしか聞こえない声で呟く。



後戻りは、もうできないけれど。



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