君と、優しくて愛しい日々を。


目を閉じると、心の準備なんかする間もないまま、柔らかなものが唇に重なった。

甘い、甘い、感覚。

酔ってしまいそうな、感覚。


「……ん、……コ、ウ」


…はじめてにしては、ちょっと長いような。

離れてはまた重なって、息をするので精一杯だ。

その合間に名前を呼ぶと、優しい声で「…ん?」と返ってきた。



……『彼女だから、でしょ?』



今日のコウの言葉が、頭のなかをめぐる。

…そうだよ。

彼女だよ、私。

あんたの、彼女だよ。


コウのことしか、見てないよ。



「………好、き」


そう言ったのは、彼じゃない。

短く繰り返すキスの間に言うと、途端にキスが止んだ。

不安になって目を開けると、コウは目を見開いていて。

赤くなった頬と、への字になった口と。

彼はムッとした顔で、「麻佑はほんと、ずるい」と言った。


「いっつも不意打ちばっか。むかつく」


………こっちのセリフですけど。

突然告白してきたのは、そっちでしょーが。



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