恋愛温度差
-旺志side-

「昨日のデート、どうだったんだ?」

 開店準備のため、店内を掃除していた俺に黒崎オーナーがにこにこ笑顔で問いかけてきた。

 俺は床を掃いているほうきの手を止めると、顔をあげた。

「デートではありません。オーナーが出された課題のために付き合っていただいたまでです」

「女とふたりきりで会うのは、課題だろうが何だろうが、デートっていうんだよ。覚えておけ」

「違うと思います。向こうもデートだとは思ってないだろうし」

「『向こう』じゃない。『あかりちゃん』だろ」

「『姫宮』さん、課題クリアのためなら仕方ないって言ってました」

 はああ、とオーナーが長い溜息を吐いてから、俺の肩に手をおいてきた。

 俺はどうやら、オーナーの出した課題の合格点に達してないようだ。

「旺志、お前は俺の課題の意味をわかってないようだ」

「そのようですね。オーナーの態度を見て、今しがた俺もそう思ったところです」

「追試だな。もう一回誘ってデートしてこい」

「わかりました」

 俺の即答に、オーナーが首を傾げた。

「なんですか?」

「お前、平気なのか?」

「平気って何がですか?」

「誘うことだよ」

「『姫宮』さんを誘えばいいんですよね? 平気ですよ」

「あ……そうか」

 オーナーはポンポンと俺の肩をたたき、「んじゃ、がんばれよ」と去り際に言葉をかけた。

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