恋愛温度差
 悔しいが、君野くんの言う通りだ。
『その気』になる気持ちは否定できない。

「黒崎オーナーの求める『オンナ』ってこういうこと」
「君野くんの課題にも、『オンナ』を求められてるってこと? こういうことをしなきゃ……いけないって」
「オーナーは姫宮さんに、そこまで期待はしてない。むしろ俺が振られるとわかってて、俺がその気になるのを待ってるだけ……だと思う」
「それ、どういう意味!?」
「言いたくない」
「え???」
 君野くんはにっこりとほほ笑んでから、わたしの額と鼻にキスを落とした。

「意味を知ってるけど、あかりさんには教えたくない」
「え!? いまっ……なまえ……」
「それとも『あかり』って呼んでもいい?」
 君野くんが耳元で囁く。

 わたしは体の芯から、カーッと熱くなるのがわかる。
 きっと顔を真っ赤になっているに違いない。

「ずるい、ずるい、ずるいっ!! だって君野くんは課題で、誘う人がいないからわたしに声をかけただけでしょ? 新たに声をかけるのが面倒だから。手近にいたわたしを……」
「『手近』っていうほど、俺の身近にあかりさんはいたっけ?」
「え?」
「『課題』を口実に食事に誘ったその日に、長年想い人を心に秘めて生きてます宣言されたら、何も言えないでしょ」
「あの、君野くん???」
「決めた。本当は今夜は、黒崎オーナーの言う『オンナ』をあかりさんに教えて、恋心を応援しようと思ったんですけど。やめた。あかりを俺のモノにする。全力で、奪うよ。身体も、心も」
 君野くんがニヤッと笑ってから、「だから頂くよ、今夜は身体を」と耳元で囁いた。

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