恋愛温度差
―あかりside-
「足、大丈夫?」
 お兄ちゃんとの会話が終わったのか、席を立った君野くんが売り場のほうにやってきた。

「すごく楽になった。これから一日立ち仕事でも大丈夫そう」
「そう、それは良かった」
「あ、お金。いくら? 今夜にでも届けるから」
「いらない」
「でも……」
「こういうのは男からのプレゼントとして受け取るものだよ……ね、茂美さん」

 君野くんが、にこっと微笑んで茂美さんに話を振る。
 茂美さんは「うん、ここは旺志くんのおごりでいいんじゃない?」と理解しきった表情で頷いた。

 茂美さんはどうやら、うすうす感づいているようで、さっきからニヤニヤした笑みでわたしを見てくる視線が痛い。

「お金、いくらでした? 払いますって、仕事終わりに待ち伏せしてても、カワイイよね??? 旺志くん?」と今度は、茂美さんが意味ありげな笑みを送った。
「ああ、ソレいいですね~! そのまま夜、デートに行けますもんね」
「お持ち帰りコースでもオッケーなんじゃない?」
「それはもう、言うことナシのフルコースです」

 茂美さんと君野くんが、意気投合してる。
 夜デートからの、お持ち帰りで……フルコースって。
 それはまさしく昨日とまったく同じパターンでは???

 目の端にうつったお兄ちゃんの背中が、やけに小さく見えて、視線を移動させる。
 視界の中心をお兄ちゃんにして、もう一度お兄ちゃんを見た。

 やっぱり小さい。
 背中を丸めているのかな?

 お兄ちゃんと君野くん、いったい何の話をしたのだろうか?
 きっとお兄ちゃんのことなら、「昨日、妹が悪かったな~」的なことなんだろうけど。

「……ということだから、あかりちゃんっ」と茂美さんに肩を叩かれて、わたしは「え?」と声をあげた。

 何の話をしていたの?
 茂美さんと君野くんの会話で、何が決定されたの?

「今夜の話!! デートして、そのままお泊りねって」
「え、あ、はい……ええっ!?」
 わたしが大きな声を出すと、「じゃ、よろしく」と君野くんがにっこりと笑って店を出ていった。

 いや、「よろしく」ってなにを???
 何が「よろしく」なの!?
 わたしは何を「よろしく」されたの?

 バッと茂美さんのほうに体を向けるが、茂美さんは鼻歌を軽快に歌い出してて、疑問に答えてはくれなさそうだった。

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