恋愛温度差
「え? あかりちゃん!?」と店の外に出てきた黒崎さんと目が合って、驚いた表情をされた。

 新商品とおぼしき写真のボードを持っている黒崎さんに、ぺこりと頭をさげたわたしは「こんばんは」と声に出す。

「どうしたの?」
「あ……ちょっと、君野くんに用事がありまして……」
 どのように説明したらいいのかわからずに、ごにょごにょと言葉を濁しながら、語尾が消えていく。

 黒崎さんが、店の前にボードを置くと、わたしの前に立った。

「用事があるなら、気にせず、店の中に入ればいいのに。寒いでしょ? 閉店まで待ってなくていいのに」

 いや、この後、どうやら出かけるらしくって……とも言えず、苦笑した。

 フルコースの予定なんです、とは言えない。
 デートに誘われちゃって……ともなんだか言いにくい。

 さて、どうしたもんか……と頭をフル回転させているうちに、黒崎さんに肩を押されて、なすがまま、店内に入ってしまった。

 落ち着いた大人の雰囲気が漂う黒崎さんのお店。
 お兄ちゃんの店とは大違い。

 ジーパン姿で入るには、今日はなんだか気が引ける。
 今までは気にせずに、店内に入れていたのに。

 オンナを意識せず。
 でも少しはオシャレに見られたいと、悩みに悩んで選んだお洋服。

 それでも、黒崎さんからオンナとして見られない格好だとわかってしまっているからかな。
 黒崎さんのお店に入るには、似合わないんじゃないかって、心のどこかで思ってしまうわたしがいる。

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