恋愛温度差
「あ……気合い入れすぎたかな? 茂美さんがいろいろ持っていったほうがいいって言うから……」
「ああ、お泊りセット?」
 クスッと君野くんが笑う。

「え……あ、フルコースだからって。間違ってた?」
「間違ってない。意気揚々とする茂美さんが容易に想像できて面白い」
「おもしっ……!! って、大変だったんだよ」
「だろうね。荷物をみればわかる。きっとあかりより、茂美さんのほうが興奮してたんだろうね」

 君野くんがクスクスと肩を震わせて失笑している。

「あ、荷物。自分で持つよ?」
「俺が持つよ。足が楽になったからって、チマメはすぐにはなおらないだろ。無理しないで」

 君野くんが歩き出す。
 わたしも後を追うように足を前に出した。

「茂美さんの言う通りかも」
「ん?」と君野くんが小首をかしげた。

『旺志くんなら、あかりちゃんをお姫様のように愛してくれるよ』
 茂美さんに言われた言葉が、リピートする。

「ううん。何でもない」
 わたしは緩みそうになる頬に力を入れると、君野くんの横に並んだ。

「あ! 靴代、払うって言ったのに。さっき話をそらしたでしょ?」
「そらしてない。いらないって言ったし、俺。渡されても、受け取る気ない。あかり、ジーパンにしたんだ」

 君野くんがわたしの足に指をさした。

「あ……まずかった?」
 君野くんもスカートを期待してたのかな。

「いや、合格って言おうと思って。さっきの格好のまま、ワンピースで来られたら……もっと不機嫌になってた」
「え?」

 君野くんが、お店のドアを開けてくれる。
 わたしはドアを押さえてくれてる君野くんの横を通り過ぎて、外に出た。
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