私に恋をしてください!
翌日。
営業と事務作業で少し遅くなってしまった俺は20時頃になって葉月に電話をかけた。

「夕飯はどうする?」
"何も買ったり食べたりしないで真っ直ぐ帰ってきてね"
「分かった」

葉月は何か買ってきてくれたのだろうか。

会社からアパートまでは電車で5駅。
徒歩5分。

アパートのドアの前で異変に気付く。
今までではあり得ない、いい匂い。

だしの香り。
和食、か?

とにかく、鍵を開けて中に入る。

『あ、お帰りなさい。勝手にキッチン使ってるよ』
「ただいま…葉月、何してるの?」

どう見たってお料理をしているんだけど、状況が信じられなくて思わず愚問をぶつけてしまった。

『見ての通りだよ。お口に合うかなぁ』

スーツの上着を脱いで家から持ってきたであろうピンク基調のエプロンを身に纏い、ローテーブルに料理を並べて行く。

ブリ大根
ひじき煮
白米
豚汁

『時間がなくて"一汁三菜"じゃなくなっちゃったね』
「全然、凄く豪華な料理だよ」
『えー?全然だよ。コンロがあと1つあればなぁ…あ、ここの駅前のスーパー、安いよね』

当たり前のようにジャーからごはんをよそい、俺に渡す葉月。
そして当たり前のようにそれを受け取る俺。

もう、たまらなくなった。

ジャーの蓋を閉じたところで、後ろから葉月の背中を丸ごと抱き締めた。
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