私に恋をしてください!
「あれは・・・彼には、私のマンガのストーリーを作り易くするために、協力をしてもらっているだけで」

私は、日下部長に先月の定例会の際に負った火傷のことを話した。

『ふぅん。ま、エレベーターでのことは、多分一緒にいた女性を振り切りたい雰囲気もあっただろうけど、少なくとも君を見る彼の目は、協力するだけの打算的な視線ではなかった。ちゃんと"彼女"を見ている目、愛する人を見つめる表情だったけどな』

あんな短時間で部長は気づいたの?

私も同じことを思った。
ソラはあの女性に何かきっと言われている。
だから私という彼女がいることをアピールしたくてわざとあの場で"葉月"と呼んだんだ。

でも部長はひとつ間違っている。
私を"愛する人"だなんてあり得ない。
だって私はソラに無理矢理私に恋をするように頼んだ人間だよ。

ソラのようないかにもモテる少女マンガのヒーローのようなイケメンタイプが、私をきちんと見つめてくれるわけがない。

そうやって恋をあきらめている私。
23年間、そうやって妄想の中で男女の理想の恋を作り、それをマンガに描き続けてきた。

日下部長にマンガの変化を褒められたのは、ソラとの恋人ごっこの成果が少し表れたからだろうか。

でも待って。
恋人ごっこの終了はいつ?
それをソラと約束していないじゃない。
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