狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅨ―ⅸ アオイの異変と真夜中の叫びⅥ
「…アオイ…ッ…」
キュリオの美しい瞳からこぼれ落ちた涙は力なく横たわるアオイの顔にポタポタと流れ落ちた。しかし彼女に反応はなく…王子の涙で蘇る姫の話など、所詮おとぎ話に過ぎない事を彼は痛感した…
―――暗い水の中をどこまでも落ちていく少女―――…
アオイの意識は彼女のそれと同化し、共に底のない水の中へと引きずり込まれていく。
…もう…抗(あらが)う力など残っていない…
体を動かすどころか、指の先さえ動かすこともできない…
"(…アオイ…ッ…)"
(…どこかで私を呼ぶ声がする…)
(……様?…)
先程から頬に感じる熱い涙。
稲妻のような彼の強い眼差しに…
私を守ってくれた大きな翼…
…そして何よりも優しい彼の腕…
(…私の、…愛しい…)
少女の閉じた瞼から涙が零れ…体中から想いが光となってあふれだす。
やがて薄れゆく意識と共に、愛しい彼の名も…忘れたくない想い出さえも暗闇に飲みこまれていく。
"(…ごめんなさい…私のせいで…)"
…胸を締め付ける自責の念…
…相手を思えば思うほど…許せない己の弱さ―――
"……。"
―――全てが無に帰す―――
小さなアオイの鼓動は…その瞬間…
―――命の音色を刻む事を止めた―――