狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXII―ⅴ 揺れる心Ⅴ
「…んぅ…」
すると、問いかけに応じるように気落ちしたような幼子の声がキュリオの耳に届いた。
「…っ!!アオイッッ!!」
神剣を手放したキュリオは勢いよく彼女の元へと駆け寄り膝を折ると…小さな体を力いっぱい抱きしめる。あたたかな彼女のぬくもりに激しく早鐘を打つ心音を落ちつけようと、キュリオは彼女の小さな体に顔を埋(うず)めた。
…と、ふわりと香る彼女の甘い匂いの中にわずかな血のにおいが鼻をかすめ…
「…まさか…お前、怪我を…」
恐る恐る顔を離したキュリオは髪で隠れている彼女の目元をそっと指先で梳いた。そしてあらわになったのは…
深い傷から流れ出る血と涙とがつくった一筋の赤い涙のあと。
「…っ!!…」
はっと息をのんだキュリオの瞳は悲しそうに揺れて…
「すまないアオイ…」
胸の痛みを押し殺すようにキュリオは強く拳を握りしめ呟いた。
「…私のアオイに一体何をした…っ…」
「ティーダ…!」
すると聞き覚えのある"ティーダ"という音にアオイは大きく目を見開いた。
"俺の名はティーダ"
"…キュリオと敵対してるヴァンパイアの王だ"
―――穏やかな彼の眼差しが浮かんでは消える―――