狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXⅥ―ⅷ キュリオとダルドの出会いⅧ
―――ダルドは人型聖獣となった己の顔を湯にうつし、思わずその中にいるもう一人の自分に触れようと腕を動かした。
パシャ…
しかし、それは小さな波紋によって歪み…なかなかそれに触れることが出来ずにいる。
『湯加減はいかがですか?ダルド様』
先程ここまで案内してくれた侍女の声が扉の向こう側から聞こえた。
「湯加減…?それ、なに?」
ダルドは人として生活したことがない。それ故、森の中に川はあっても体を温める温かい湯のようなものは存在していなかったのだ。
『…そうですね、ええと…。熱かったり冷たかったりしませんか?という意味です』
「そう…、そういう意味ならどちらでもない…と思う」
『かしこまりましたっ!では…御用がありましたらいつでもお呼びつけくださいませっ』
ダルドの難しい表現にも面倒臭がらず、言葉に笑みを浮かべたような侍女の優しい返事が返ってくる。
「…うん。わかった…」
やや遠ざかった彼女の気配に、ダルドはようやく肩の力を抜くことが出来た。
「キュリオの家は人が多い…」