狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

XXXⅧ―ⅱ 大魔導師との再会Ⅱ

馴染みのある年を重ねた深みのある声と、研究室の懐かしい古木の香りがダルドの耳と鼻を心地よくくすぐる。

「……ほ? もしや、ダルド殿ですかな?」

 笑みを浮かべたキュリオがそっと脇にずれると、かつての若い姿のまま変わらぬ人型聖獣のダルドが隣に並んだ。

「おおっ! お久しぶりですじゃダルド殿!!」

 <大魔導士>ガーラントはダルドがこの部屋を初めて訪れたときのように分厚い魔導書を両手いっぱいに抱え、積み重ねたそれらの間から顔をのぞかせた。

「うん。久しぶり、ガーラント」

 貴重な魔導書の数々をまるで放り投げるように机へと置き去りにしたガーラントは一目散に駆けてくる。

「……?」

 そしてしっかりと手を握り合ったふたりの……、特に白銀の青年の神秘的な容姿を食い入るように見つめているのはアレスだ。彼は人型聖獣を今まで目にしたことがなく、ましてや簡単にお目にかかれるような存在とも思っていなかったため、ダルドの頭に生えているそれは動物系の髪飾りだと思い込んでいる。

「僕は今日、魔導師の杖を創りに来たんだ。君の杖……痛みがあったら直すけど、問題ない?」

 キュリオまでとは言わないが、幾分か饒舌さを見せたダルドがいかにガーラントに心を許しているかがわかる。
それもそのはず、ダルドが持つ鍛冶屋(スィデラス)の魔導書はこの魔導師が集うこの研究室から贈られ、当時のダルドが解読不能な悠久の古代文字を教えたのも若かりし頃のガーラントだったからである。

「ここ数十年痛みなど全くありませぬぞっ! ダルド殿は相変わらず良い仕事をされる!」

「……数十年?」

 どうみても十代後半くらいにしか見えない白銀の彼に数十年という言葉を述べるのは難しいものがある。
友人にしては年が離れすぎているふたりの間柄は気になるが、再開に水を差さぬよう一歩下がってその光景を見つめていたアレスの独り言に気づいたキュリオが透き通るような笑顔で答えた。

「ふふっ、彼らもかれこれ八十年来の付き合いになるかな?」

「……は、八十年っ!? 
まさかそんなっ……! え……!? ダルド様もキュリオ様のようにお年を召されないのですかっ!?」

 アレスは短時間のうちに自分で立てた仮説を自身で否定しながらキュリオを見上げる。
しかし、その思考には少し謝りがある。キュリオとて年を取らないはずがなく、ただ……王たる者はその位に就いた瞬間から老いとは無縁の存在となり、そこから数百年もの間若い姿を保ち続けるのだ。

「アレスは人型聖獣の話を聞いたことはあるかい?」

「はい、言葉くらいは……」

 なぜ今そのようなことを聞くのだろう? と、アレスは静かに麗しい王の声に耳を傾ける。

「彼がその人型聖獣さ。私も五百年以上生きてきたが、本物に会ったのは彼が初めてだ」


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