狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのLXⅨ
思わず立ち上がったアオイだったが、扉の向こう側から聞こえたのは…
『失礼いたしますセシエル様』
彼の了解を得た数人の女官や侍女が笑顔のまま華やかな衣装を手にし、室内へとなだれ込んできた。
「……」
気落ちするように視線を彷徨わせたアオイに構うことなく、侍女たちが彼女の周りを取り囲む。
「どうぞこちらのお召し物にお着替えください。お手伝いいたします」
にこやかに微笑んだ女官に疑問の色を浮かべたアオイ。
「…あの、えっと…」
「もうすぐ昼食の時間だ。アオイさんはそのワンピースしか持っていないのだろうと思ってね。こちらで用意させてもらったよ」
にこにこと笑みを浮かべたセシエルは失礼のないようにと、アオイの着替えが始まる前に部屋を出て行こうとする。
「セシエル様、ここまでしていただくわけには…っ…」
(いつ消えてしまうかわからない私なのに…)
自分とは違う時代を生き、アオイが存在してしまったことで何かが変わってしまうかもしれない。それでもアオイは願わずにいられない。
されるがままになっていたアオイは己を奮い立たせるように、拳をきつく握りしめた。
(…だからこそ急がなきゃ!)
「ごめんなさいセシエル様…私、キュリオ様のところに行ってきます!」
「…あぁ、行っておいで」
どことなく寂しげな雰囲気を滲ませたセシエルだが、アオイは気づかず部屋を飛び出して行った。
「…いかがなさいましょうセシエル様…」
物悲しく閉ざされた扉を見つめる侍女と、アオイのために用意された美しい衣を抱えたままの女官はオロオロと戸惑いを見せている。
「…ここはもういい。服を置いて君たちは食事の用意を整えておくれ」
「かしこまりました」
一礼してその場をあとにした彼女らの姿が消えると、部屋にひとり残ったセシエルはため息をついた。
「彼の未来を変えたいと願う彼女と…彼女の未来を変えたいと願う私…」
「あとはキュリオがどう出るか…だな…」
しかし、キュリオの良き理解者として、さらには複雑な王の立場を知っておいて欲しいと望むセシエルの深い優しさ。
そして…何かを知っているのはアオイだけではない。
彼女の何かを知っているのはセシエルも同じだった。
そしてセシエルは床に置かれたあの童話を手にすると、ラストのページへ何かを書き込んでいる。
"愛する君へ………"
いくつか癖のない綺麗な文字を綴り、最後に己のサインを記したセシエルは本を抱きしめたまま自室へと戻っていった―――。
『失礼いたしますセシエル様』
彼の了解を得た数人の女官や侍女が笑顔のまま華やかな衣装を手にし、室内へとなだれ込んできた。
「……」
気落ちするように視線を彷徨わせたアオイに構うことなく、侍女たちが彼女の周りを取り囲む。
「どうぞこちらのお召し物にお着替えください。お手伝いいたします」
にこやかに微笑んだ女官に疑問の色を浮かべたアオイ。
「…あの、えっと…」
「もうすぐ昼食の時間だ。アオイさんはそのワンピースしか持っていないのだろうと思ってね。こちらで用意させてもらったよ」
にこにこと笑みを浮かべたセシエルは失礼のないようにと、アオイの着替えが始まる前に部屋を出て行こうとする。
「セシエル様、ここまでしていただくわけには…っ…」
(いつ消えてしまうかわからない私なのに…)
自分とは違う時代を生き、アオイが存在してしまったことで何かが変わってしまうかもしれない。それでもアオイは願わずにいられない。
されるがままになっていたアオイは己を奮い立たせるように、拳をきつく握りしめた。
(…だからこそ急がなきゃ!)
「ごめんなさいセシエル様…私、キュリオ様のところに行ってきます!」
「…あぁ、行っておいで」
どことなく寂しげな雰囲気を滲ませたセシエルだが、アオイは気づかず部屋を飛び出して行った。
「…いかがなさいましょうセシエル様…」
物悲しく閉ざされた扉を見つめる侍女と、アオイのために用意された美しい衣を抱えたままの女官はオロオロと戸惑いを見せている。
「…ここはもういい。服を置いて君たちは食事の用意を整えておくれ」
「かしこまりました」
一礼してその場をあとにした彼女らの姿が消えると、部屋にひとり残ったセシエルはため息をついた。
「彼の未来を変えたいと願う彼女と…彼女の未来を変えたいと願う私…」
「あとはキュリオがどう出るか…だな…」
しかし、キュリオの良き理解者として、さらには複雑な王の立場を知っておいて欲しいと望むセシエルの深い優しさ。
そして…何かを知っているのはアオイだけではない。
彼女の何かを知っているのはセシエルも同じだった。
そしてセシエルは床に置かれたあの童話を手にすると、ラストのページへ何かを書き込んでいる。
"愛する君へ………"
いくつか癖のない綺麗な文字を綴り、最後に己のサインを記したセシエルは本を抱きしめたまま自室へと戻っていった―――。