狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
その26
辺りを見回してみるが、ヤマト以外の姿が見えないことに<雷帝>は違和感を感じた。
「…ソウガが南の大地をまわっているはずです」
「…なるほどな」
南の彼方へと意識を集中させると、たしかに高速で移動する"ソウガ"の気配を捉えることが出来た。
しかし…
「クジョウとセンスイはどうした?」
(…国の裏側にでも行っているのか?)
どの方向を探しても彼らの気配は拾えない。
「それが近頃…センスイの行動に少々問題が…。クジョウはあいつを連れ戻すために出ています」
「センスイが…?」
まさか問題児とは一番遠い者の名を出され、エデンはわずかな動揺を見せた。
温和で争いを好まないセンスイが厄介事に自ら首を突っ込むとは到底思えない。仲間内でのいざこざも、彼は常に仲を取り持つ側にいたはずだ。
「珍しいな。打ち込めるものでも見つかったのか?」
彼の人柄を考え、あくまで楽観的にとらえようとするエデンだったが…
「…そんな生ぬるいものじゃない。あいつは戦いに身を投じるつもりでいた…」
「…なんだと?…一体何と戦っている?」
無意識に拳を握りしめたエデンの仕草をヤマトは見逃さない。
「何と、か…」
ふっと皮肉を含んだ冷たい笑みを浮かべたヤマト。切れ長の瞳に眉目秀麗なこの青年は、気持ちが良いくらい真っ直ぐな性格で、遠回しな言い方や態度をとるような人間ではないはずだったが…
体ごと向き直ったヤマトの表情が一変し、その瞳は温度を感じさせない冷え切ったものへと塗り替えられていく。
「エデン殿…罪の意識からセンスイを助けるおつもりか?」
「あぁ…そうだな。そうではない、とは言い切れない」
棘のあるヤマトの物言いに、エデンは頷きながらも辛そうに顔を歪めた。
「…いいでしょう。出来るのなら…ね」
楽しそうに口の端を引き上げたヤマトだが、不気味なほどにその瞳は笑っておらず…やがて、彼の口から告げられた相手の名は思いもよらぬ人物だった。
「…戦えますか?あなたのご友人…五大国・第二位、悠久の王キュリオ殿と…」