狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その29

「…貴様の名はセシエルか…」


キュリオが彼の名を叫んだことにより、目の前にいる銀髪の男の正体がようやく明らかになる。


「別に隠していたわけじゃないさ。名乗る必要もないかと思っただけだよ…」


言い終える前に踏み出したセシエルの姿は一瞬にして彼の視界から消え、鋭い一陣の風がクジョウの傍を横切って行く。

すぐさま…視界の端に新たなる煌めきが残像を残したかと思うと―――…


次の瞬間、目の前に突きつけられたセシエルの神剣の切っ先。



―――キィインッ!!



先手を打った彼の攻撃に表情ひとつ変えることなく受け止めたクジョウの手には、彼の瞳と同じ紫水晶(アメジスト)色の禍々しい光を纏った剣が握られていた―――。


―――と、無表情の彼の眉がピクリと動いた。



(…キュリオとは比べ物にならない剣の重みだな…)


「……」


受け止めた彼の剣はより一層輝きを増し、セシエルの攻撃に怒りの咆哮を上げた。


「素晴らしい剣だ…」


口元に薄い笑いを浮かべたままのセシエルの第二の攻撃が炸裂する。


―――ダッッ!!


上段からの斬撃に容赦のない彼の力が加わり、完全に回避したと思ったクジョウの腕に鮮血がほとばしる。


(やはりこの夢は傷を負う…か)


深く裂けた己の傷口に痛みを感じながらも漆黒の男の心は冷静だった。

そしてそんなことを考えている合間にも上級魔法を神剣に込めた彼の攻撃が雨のように降り注ぐ。


その身を襲う猛攻撃を剣で弾きながら間合いを詰めるクジョウ。


「…この夢は貴様のものか?」


―――ガキィイインッ!!


互いの剣がぶつかり合い、行場を失った剣圧が二人の間で爆風を巻き起こす。


「…ご名答。これはただの夢じゃない。だからこそ君たちを消滅させる願ってもないチャンスなんだ」


「悠久のセシエル…貴様がここまでの強さだとは正直思っていなかった。…なぜキュリオに王の座を渡した」


「そうだね…タイミングとでも言っておこうか」


二つの剣が離れ、高く飛び上がったセシエルの神剣がかつてない輝きを放つ―――…


「この程度の力では千年王に遠く及ばない…そしていつまでも私が王座にいたら不都合が生じるんだ」


「千年王にもなれない私が長く居座った後、次代の王が即位し間もなく君たちが現れたら…その勝敗はわかりきっている」


「…事実、キュリオはセンスイと互角…貴様の考えが浅はかだったというわけか」


ふっと吐き捨てるような笑いを浮かべたクジョウ。しかし…


「互角?君たちはまだキュリオの本当の力を知らないだけさ」


嬉しそうに笑ったセシエルの麗しい顔が、翳(かざ)された神剣の光を受けて輝くと…金色(こんじき)の爆裂魔法がクジョウ目がけて放たれた―――



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