狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その52

「ま、待って僕…っ…」


階段を駆け上がり続ける二つの影。
手を引かれたアオイは息も絶え絶えに踊り場で手すりを掴んだまま、目の前の少年に声をかける。


「お母さまだいじょうぶ?」


吸い付くような温もりのあふれる少年の手が離れたかと思うと、その手は気遣わしげにアオイの背を撫でた。


「ごめん…ね、最近運動不足みたいで…っ」


「だねーっ!いつもお父さまに甘やかされてるからだよ?」


「え…」


まるでキュリオとの生活を見抜かれているようでドキリとしたが…恥ずかしさの中にひとつの疑問が浮かび上がってくる。


「せっかくお母さまといっしょにお城からぬけ出しても…すぐお父さまがさがしにくるんだもん。あ、でもそれってお母さまのせいじゃないか…」


綺麗な顎に手をあて、考える素振りがとてもあの人と似ている。


「ね、ねぇ…僕の言っているお父さまってもしかして…キュリオ様の…こと?」


すると、目を丸くした少年が驚いたように顔を覗きこんできた。


「本当にだいじょうぶ?お母さま…僕がキュリオだよ?」


「えっ…!?」


「…じゃあお父さまは…?」


「そこにいるはずだよー?はやくはやくっ!」



(…どういうこと?私は一体…誰…?)



空色の瞳と銀髪の髪をなびかせ、アオイの手をぐいぐいと引っ張る力強さに紛れもないキュリオのぬくもりを感じた―――。


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