狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その53

(クジョウの命に別状はない…ならこの場を離れるのは容易(たやす)い)


ボロボロではあるが、さすがはクジョウだ。傷つきながらも奥の手はいつも隠している。
だが、万全ではない彼がこの戦いに身を投じること事態、本来は危ぶまれるところなのだ。


「この空間…崩壊に巻き込まれたらどこに飛ばされるかわからないな」


頭上を仰ぎ見たヤマト。


「その前に…」


切れ長の瞳が空からセンスイへと向けられ…


(センスイが心を寄せる少女…近くまで迫っているが、幻か実体かも不明だと言っていたな。だが、こいつが何度も夢に振り回されると後々やっかいだ)


不思議な力で繋がる彼らはよく同じ夢を見ている。
そこにいるセンスイはいつも水鏡を覗き、一度だけ夢で出会った不思議な少女を探し続けていた。


(夢の共通点はあの少女。やっかいなものを連れてくる娘だ…)


彼のいう"やっかいなもの"はもちろん悠久の王のことである。


そして今回…キュリオを凌ぐセシエルというかつての王までいる始末だ。


いくつかの疑問が残るなか、変わり果てた同志に声をかける。


「…いい加減それを仕舞えセンスイ。空間の歪みに拍車をかけている」


片膝をついたヤマトは苦しそうに息をするセンスイの手元を見つめている。


『…皆殺しだッ…!!悠久のッ…王もッッ!!<雷帝>もッッッ!!!』


「…そうか」


「それがお前の望みなら俺が叶えてやる。もうすぐここに来る女も含めてな…」


『…おん、な…?』


声を下げたヤマトの言葉に豹変したセンスイの瞳が一瞬、元の優しい光を湛え彼の顔を凝視する。

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