狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その59


"どこにいても必ずお前を見つけてやる。その不安も迷いも…すべて私が引き受ける"




"お前はただ…"




―――安心して生まれて来ればいい…―――




あの一件から数日が過ぎた、そう早くはない朝―――…




「スーハー…スー…ハァ…」


突如現れた少女、アオイに用意された部屋の前で幼いキュリオは深呼吸を繰り返していた。


(彼女は…未来の、私の娘…)


そうとわかれば緊張するのもおかしな話なのだが、キュリオにとって彼女はまだ娘ではなく一人の女性なのだ。


―――コンコン…


数回ノックしてみるものの、いつものことながら彼女の返事はない。


「…驚くな。あいつがこの時間に起きていないのはもはや常識だ」


ほぼ日の出の時分に起床しているキュリオ。
この悠久では、人の世界でいう午前五時半頃が日の出と決まっているのだ。


"アオイさんにはアオイさんの生活リズムというものがあるはずだ。私たちの時間に合わせる必要はないんだよ?"


"何をおっしゃいますかセシエル様!!ここにいる限り彼女は貴方様のイイ人…なんですから、その生活態度は皆に注目されておりますっ!!今までの彼女がどうであれ、セシエル様が同じように見られてしまうのではないかと私は心配なのですっっ!!"


"…っ…"


セシエルのイイ人、と言葉にしたとたんキュリオの胸がズキリと痛んだ。


(…まただ…この胸の痛みは一体……)


アオイと出会って間もなく感じた胸の痛みを含め、キュリオはその原因がわからずにいる。


"未来のお前が彼女を溺愛した結果が今のアオイさんだというのにね?"


"…え?"


胸元を押さえ、じっと考え込んでいたキュリオの耳にセシエルの言葉は届かなかった。


"なんでもないよ…"


ほんの少し寂しそうに笑ったセシエル。

それじゃあ…とセシエルの計らいで本来学生であるアオイの平均的な起床時間を考慮し、せめて午前7時を過ぎるまで眠らせてやることになったのだった。


「しかし、もう随分時間は過ぎている。…まったく…親の顔が見てみた…」


とまで言いかけて。


「…わ、私がアオイの教育を怠ったということになるのか…?」










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