狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その61

すると、息を弾ませて飛び出したキュリオの前に人影が写り込む。


「…キュリオ?どうしたんだい?」


頭上から降り注ぐ美しい声にキュリオは弾かれたように顔を上げた。


「セ、セシエル様っ!!アオイ…様がっ…お早く!!」


「…わかった」


見た目にはわからないが、彼の呼吸がほんの少し上がっているような気がする。

そして…柔らかなセシエルの顔がすぐ険しく深められたが、驚いた様子はなさそうだ。


(…セシエル様がなぜここに…それとも何かご存じなのか…?)


銀髪を靡かせ、足早に横を通り過ぎた彼を追いかけるキュリオ。


すぐさまアオイの横たわるベッドに近づいたセシエルは…


「…少し席を外しておくれキュリオ」


「…え…?」


まさかそんなことを要求されるとは思ってもみなかったキュリオは小さな衝撃を受けた。

しかし、王の命令に背くことなど彼に出来るはずがない。


「……っ」


もはや目を開けることも辛そうなアオイを見つめ、言葉を飲み込んだ。


「…畏まりました。失礼します…」


(そうだ…セシエル様にお任せすれば何も心配はいらない…)


そう自分に言いきかせ扉を出たものの、その場を離れることも出来ずにいるキュリオはアオイの部屋の壁にもたれかかっていた―――。


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