狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その72

―――とある世界の暗い一室で…体中に痛みを抱えた青年が苦痛に顔を歪ませながら徐々に意識を覚醒させていく。


「…ッ…グハッ…」


彼はベッドの上で長い髪を広げ、激痛の走る胸元を左手でつかみながら右手で真っ白なシーツを強く握りしめた。


「…ハァッ…ハァ…ッ」


夢から覚めたアオイが無傷だったにも関わらず瀕死状態にあったのと同じくして…

セシエルの創りだした"異空間"で重症を負った仙水もまた激しい痛みにその身をさらしていたのだった。


(…この痛みと疲労感は…やはり…っ…)


左肘をつき、震える右腕で体を支えながらようやく上半身を起こした仙水。

荒く呼吸を吐きながら扉に向かう彼だが…


「くっ…」


激しい痛みと遠のいていく意識に抗えず、彼の体が大きく傾いていく。

数歩行ったところでガクリと膝をついてしまった蒼白の仙水。額には尋常ではない量の汗が滲み、彼はそれでも立ち上がろうと冷たい壁に手をついた。


―――ガチャ…


白い手がようやくドアノブを掴み、開いた扉の向こうもまた闇に包まれている。


まるで鉛のように重い体を引きずるようにして足進めると…


「おい!仙水っ!!ちょっとまってろ!!」


前方から食事のトレイを手にした一人の少年が慌てたように声をかけてきた。


一瞬、視界から消えた少年の姿。


―――ガシャンッ!!


再び現れた少年の手はふさがっておらず、トレイはどこかに置いてきたらしいことが伺える。


「すぐ湯殿に連れてってやる…っ…!!俺の肩使えっ!!」




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